onoshin blog

メンタルにまつわる自己理解について

寺地はるな『水を縫う』

📘2022.10.27

縫い物が好きな男子高校生・松岡清澄。

調理と裁縫に長けていることで「女子力が高い」と言われ、女子からは「女子力高過ぎ男子」と呼ばれていた。


「女の子になりたいの?」
「男が好きなん?」


もう、本当にバカじゃないのか。
仮にそうだとして、だからなんだという話だ。
 

女らしいとか男らしいということ自体もよくわからない。


そんなめんどくさいもん、いる?

と思わずにいられない──。
 


女だから男だからと言うまえに
目の前のひとりの人間を知ろうとすること。


自分のことを知ってもらいたいなら
伝える努力をしなければいけない。


普通ってなんだろう?
女らしさ、男らしさとは?
 

姉は結婚し、秋にはこの家を出ていく。

正しい結婚相手を選び、正しく出産をし、正しく子育てをして正しく老いていくのだろう。


正しく、普通に生きていくのは
思っているほど簡単なことじゃない。
 

きらめくもの。揺らめくもの。
目に見えていても、かたちのないものには触れられない。

すくいとって保管することはできない。
太陽が翳ればたちまち消え失せる。

だからこそ美しいのだとわかっていても、願う。



布の上で、あれを再現できたらいい。
そうすれば指で触れてたしかめられる。
身にまとうことだって。そういうドレスをつくりたい。

着てほしい。すべてのものを「無理」と遠ざける姉にこそ。



きらめくもの。揺らめくもの。
どうせ触れられないのだから、なんてあきらめる必要などない。

無理なんかじゃないから、ぜったい。
 


「姉ちゃんのウェディングドレスを僕がつくる」
 


刺繍が好きな弟と「かわいい」が嫌いな姉。

結婚する姉に、ウェディングドレスをつくるまでの物語。
 

清澄と姉の水青、母・さつ子、祖母・文枝、父・全。家族5人とそして黒田さん。

織りなす糸は美しい刺繍となってやがてひとつの形となる。

この美しい家族のように。
 

流れる水は、決して淀まない。
常に動き続けているから、清らかで澄んでいる。


わかってくれなくてかまわない。
わかってほしいなんて思ってない。
ただ見ていてほしい。僕が動き続けるのを。
 

「僕が刺繍をするのは、刺繍が好きやからや」
 

さびしさをごまかすために、自分の好きなことを好きではないふりをするのは、

好きではないことを好きなふりをするのは、

もっともっとさびしい。
 

好きなものをまっすぐに好きだと言い
流れる水のように清らかに動き続ける
 

男らしさでも女らしさでもなく


ドレスを完成させた清澄が

ただただ、魅力的に見えた。